HealthPulse AI で MediaPipe を活用して健康の公平性を向上

1月 18, 2024
Rouella Mendonca AI Product Lead Audere

以下の投稿で言及されている情報、用途、応用方法は、ゲスト投稿者である Audere に帰属するものであることにご留意ください。

HealthPulse AI とその実世界への応用について

HIV、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)、マラリアなどの予防可能で治療可能な疾患の症例数は、世界中で年間約 1,200 万件にのぼります。罹患者の多くは、ただでさえ医療体制やリソースが十分でない地域に住む人たちです1。感染性であれ、非感染性であれ、疾患は教育や所得、平均余命などの健康指標に悪影響を及ぼし、人類の発展を妨げています2。適切な診断と治療をタイムリーに、そして手頃な価格で受けられる体制が整っていないことは、死亡率が上昇する主要な要因となります。

迅速診断検査(RDT)は、費用がかからず比較的使いやすいことから世界中で年間約 10 億回使用されており、その数は増加傾向にあります。しかし、RDT の使用には課題があります。

  • RDT のデータが報告されても、症例数が膨大であること、季節性変動が報告されないこと、治療レジメンが遵守されていないことなどから、結果の信頼性に欠けます。
  • RDT は、分散している治療環境で、トレーニングを限定的にしか受けていないか、まったく受けてないスタッフが使用するため、誤用や検査結果の誤った解釈のリスクが高まります。

デジタルヘルスの非営利団体 Audere が開発した HealthPulse AI は、MediaPipe を活用してこうした問題に対処し、世界で特に広く使用されている RDT への信頼が高まるよう、デジタルの面から支援しています。

HealthPulse AI は、あらゆるデジタル ソリューションを迅速診断検査(RDT)リーダーに変えることができるツールセットです。これらのツールを利用すると、迅速診断検査の精度が向上し、誤用が減り、分散した医療環境でもマラリア、COVID-19、HIV を含む疾患を検査できるようになり、世界的に顕著な健康問題が解決します。ローエンドのスマートフォンさえあれば、HealthPulse AI では、迅速診断検査の結果の精度を向上させる一方で、サーベイランス、プログラムの報告、検査のバリデーションのためのデータを自動的にデジタル化することが可能です。これにより、デジタル キャプチャと結果の解釈に AI のサポートが得られます。また、医療提供者とセルフテストのための明快でアクセスしやすいデジタルの取扱説明書と、さまざまな標準に基づく検査結果のリアルタイム レポートも利用できます。

地元の導入担当者、グローバル NGO 、行政機関、民間の薬局は、これらの機能をウェブサービス(chatbot、アプリ、サーバーの実装で使用する)、モバイル SDK(任意のモバイルアプリでオフラインで使用する)、またはネイティブの Android / iOS アプリから直接利用できます。

これにより、質の保証された仮想診療モデルなどの革新的なユースケースが可能となります。スティグマを気にせずに HIV 検査を在宅で簡単に行うことができれば、教育、予防、治療の選択肢が広がります。

HealthPulse AI のユースケース

HealthPulse AI により、民間部門(薬局など)、公共部門(診療所など)、コミュニティ プログラム(地域医療のスタッフなど)、セルフテストのユースケースにおいて、タイムリーで質の高い医療を大々的に民主化できます。HealthPulse AI では、ローエンドのスマートフォンで撮影した RDT 画像を使用するだけで、臨床医は貴重な意思決定支援と品質管理機能を得られ(ラインがかすかで人の目では判別しづらい場合に特に有用です)、仮想診療モデルがより強固なものになります。民間部門では、インセンティブ プログラムを自動化し、規模を拡大できるため、監査員は検査の異常に基づいて自動化されたアラートを確認するだけで済みます。コミュニティ ケアプログラムでは、HealthPulse AI は、検査を正しく管理し、解釈する方法を学ぶ医療従事者のためのトレーニング ツールとして使用できます。公共部門では、リアルタイムで疾病を追跡し、医療提供のあらゆる経路で結果を検証することで、サーベイランス システムを強化できます。それによって対応がより迅速になり、パンデミックに備えることができます3。

HealthPulse AI のアルゴリズム

HealthPulse AI は、マラリア、HIV、COVID-19 の主要 RDT 向けの AI アルゴリズムのライブラリを備えています。各アルゴリズムは、機械学習(ML)アルゴリズムを使用してトレーニングされたコンピュータ ビジョン(CV)モデルのコレクションです。RDT の画像から、このアルゴリズムは次のことができます。

  • ローエンドのスマートフォンによくある画質の問題(ぼやけ、露出オーバー、露出不足)
  • RDT タイプの検出
  • 検査結果の解釈

画像品質の保証

RDT の画像をキャプチャする場合、上述のユースケースで利用できるようにするためには、キャプチャされた画像が人間と AI に解釈可能であることが重要です。特に、ローエンドのスマートフォンで撮影すると、環境の光量不足や、ユーザーの手ぶれによって画質が悪くなることが少なくありません。これに対処するため、HealthPulse AI は敵対的画像の状態を識別するための画質保証(IQA)を備えています。IQA は検出された懸念を返すため、この機能を利用して、必要があれば写真を撮り直すようユーザーにリアルタイムで要求することができます。IQA がないと、たとえば遠隔医療のユースケースでは、画像が解釈できなかったり、RDT の読み取り期限が切れたりするために、クライアントは再検査を余儀なくされます。品質が懸念される場合にちょうどよいタイミングでフラグを立てることより、追加の費用や治療の遅延を回避できます。IQA がフラグを立てる敵対的画像のいくつかの例を以下の図 1 に示します。

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図 1: マラリア、HIV、COVID-19 検査の画像。暗い、ぼやけている、明るすぎる、小さすぎる。

分類

症例が特に多いアフリカ、東南アジア、ラテンアメリカで一般的なローエンド スマートフォンに通常搭載されているのは 5 メガピクセル カメラです。HealthPulse AI はそうしたカメラでキャプチャされた画像だけで、具体的な検査(ブランド、疾患)と個々の検査ラインを特定し、検査の解釈を提供できます。現在の AI アルゴリズムのライブラリは、マラリア、HIV、COVID-19 に最も一般的に使用される WHO(世界保健機関)の事前認定を受けた RDT の多くをサポートしています。Audere の AI は条件にとらわれず、さまざまな伝染性および非伝染性疾患(糖尿病、インフルエンザ、結核、妊娠、性感染症など)の RDT をサポートするために簡単に拡張できます。

HealthPulse AI は、画像内の RDT のタイプを検出し(モデルがトレーニング済みでサポートされている RDT の場合)、ラインの有無を検出し、特定の検査の分類(陽性、陰性、無効、解釈不能など)を返すことができます。図 2 を参照してください。

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図 2: サポートされているラテラルフロー迅速検査の解釈。

MediaPipe をなぜ、またどのように使用しているか

インフラストラクチャが不安定な分散型の医療環境で HealthPulse AI を展開するには、数々の課題が伴います。1 つ目の課題は、信頼できるインターネット接続がないことで、多くの場合、CV と ML のアルゴリズムはローカルで実行する必要があります。2 つ目に、そうした環境で利用できるスマートフォンは非常に古く、最新のハードウェア(< 1 GB の RAM とそれに見合う CPU スペック)を備えていません。プラットフォームは iOS、Android、Huawei と異なり、バージョンもばらばらで、OS をもうアップデートできない非常に古いものばかりです。そのため、プラットフォームにとらわれない高効率な推論エンジンが必要になります。MediaPipe にはすぐに使えるマルチプラットフォームのサポートがあるため、こうした条件下でも画像に特化した ML 処理を効果的に実行できます。

費用回収モードで活動する非営利団体として、ソリューションには次の点が重要でした。

  • 世界的に広く普及している
  • 維持に手間がかからない
  • オフラインで低リソースという主なユーザー環境でも高いパフォーマンスを発揮できる

HealthPulse AI では多くのグルーコードを書かなくても、MediaPipe 上に構築された同じライブラリを使用して Android、iOS、クラウド デバイスをサポートできます。

Audere のパイプライン

MediaPipe のグラフ定義により、推論パイプラインをその場で構築して反復できます。ユーザーが画像を送信すると、パイプラインは RDT のタイプを判定し、RDT 画像の検出された結果ウィンドウを切り抜いて分類器に渡して検査結果の分類を試みます。

人間と AI の解釈可能性を高めるためには、高品質の画像を用意することが重要です。しかし、パイプラインへの入力画像は極めて多様で、制御することはほとんど不可能です。画像にばらつきが生じる要因には、スマートフォンのカメラの機能 / 画素数 / 物理的欠陥がさまざまに異なることによる画像品質の変動、検査環境の不統一性(水準以下の多様な照明条件など)、RDT カセットの向きの違い、焦点の合っていない不鮮明な画像、RDT が部分的にしか写っていない画像など、AI の課題となる多くの敵対的条件が含まれます。そのため、画像の品質保証がソリューションの重要な要素となります。各画像は多くの計算ツールを通過し、そこで検出器や分類器の正確な動作を妨げ得る品質上の懸念が特定されます。パイプラインはこれらの懸念をホスト アプリケーションに報告し、必要に応じてエンドユーザーにリアルタイムで写真の再撮影をリクエストします。RDT の結果の有効期間は限られているため(たとえば、処理後に正確に読み取ることができる期間を RDT メーカーが指定しているなど)、IQA は治療のタイムリーな提供とコスト削減に不可欠です。図 3 は、パイプラインのフローチャート概要図です。

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図 3: HealthPulse AI のパイプライン

まとめ

HealthPulse AI は、伝染性および非伝染性の予防可能な疾病の影響を集中的に受ける、医療の行き届いていない地域で、検査プログラムとデータの充実と質の向上を図るために設計されています。

新しい迅速診断検査を Audere がすみやかに反復およびサポートできるプラットフォームを提供している MediaPipe は、この使命において重要な役割を果たしています。新しい迅速検査が定期的に市場に出回り、地域や家庭で使用できる検査が頻繁に変わる可能性があるため、こうしたプラットフォームは不可欠です。さらに、柔軟性もあるため、パイプラインを維持するためのオーバーヘッドを削減できます。費用対効果の高い運用には不可欠です。これは結果として、サービスを最も必要とする人たちにサービスを提供する世界各国の行政機関や組織が利用する際のコストの削減になります。

HealthPulse AI のサービスにより、組織や行政機関は、最小限のオーバーヘッドで診断分野の新しいイノベーションの恩恵を受けることができます。これは一次医療の取り組みにおいて不可欠な要素です。リソース不足のコミュニティに住む人たちが効果的な医療をタイムリーに、妥当な費用で受けられるようになります。

Audere について

Audere は、AI ベースのソリューションを開発する世界的なデジタルヘルス非営利団体です。革新的でスケーラブルな相互接続ツールを提供することで、医療提供における重要な問題に対処し、医療が十分に行き届いていない世界中のコミュニティにおける健康の公平性を推進しています。Audere は、世界の人々の健康とハイテクが交差する独特の場所で事業を展開し、マラリア、COVID-19、HIV などの疾病の検出、予防、治療に革命をもたらす、高度ながらも利用しやすいソフトウェアを開発しています。情熱的で革新的なマインドを持つ Audere の多様なチームは、人間中心の設計、スマートフォン技術、人工知能(AI)、オープン標準、優れたクラウドベースのサービスを組み合わせることで、低中所得者層に新しい方法でヘルスケアを提供する世界中のイノベーターを支援しています。Audere は主にアフリカで運営しており、ナイジェリア、ケニア、コートジボワール、ベナン、ウガンダ、ザンビア、南アフリカ、エチオピアでプロジェクトを展開しています。

1 マラリアに関する WHO のファクトシート 2 The burden of communicable and non-communicable diseases in developing countries 3 Transforming Rapid Diagnostic Tests into Trusted Diagnostic Tools in LMIC using AI